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そう君は想う



ある日ある時、氷の上にひとり立っていたそう君は、
ふと、頭の上に不思議な卵が浮いているのに気がついた。
卵は何事か語りかけているようだ。
そう君は耳を澄ました。すると少し聴こえてきた。
もっと耳を澄ましていると、心がしぃんと澄んできた。
すると卵の言葉がよりたくさん聴こえるようになった。
卵の語りは興味深いことばかりだったが、
時にはそう君が疑問に想うこともあった。
そこで、そう君は卵に質問をしてみた。
卵は何でも答えてくれる。
こうして、そう君は、卵と会話できるようになっていった。






◆その壱◇

「卵さん卵さん、昔、ペンギンをたくさん殺して大鍋に入れて油を採ったという人間って生き物は、
 どういう生き物なんですか?」
「人間ってえのは、本当は自然のまま、あるがままが一番なんだ。
 放っておけば堕落しないし、性格だって曲ることはないさ。
 大昔はそうやって自由に伸び伸びとしていたもんだ。
 だけど、みんなを支配してやろうと考えた者が現れたんだな。
 みんなを『幸せになれるんだぞ』って一方に向かせて『こうしようぜ』『こう決めたよ』ってやったのさ。
 おかげで、みんなは幸せになろうって頑張るようになった。自然じゃなくなったんだなあ。
 で、支配する者が自分勝手で我がままでやりたい放題の無茶苦茶な人間だったりすると、みんなは苦しむ。
 幸せだ!って喜び過ぎると〈陽〉に行き過ぎて、怒り過ぎると〈陰〉に行き過ぎて、バランスが崩れる。
 陰陽のバランスが崩れると、喜怒哀楽も極端、思うことも考えることも混乱して、
 生活リズムはぐずぐずで、ルールなんて壊れちまう。
 そんな世界にいるから、不平不満だらけなんだよ人間は」
「ちゃんとした支配者はいないんですか?」
「なんにもしない支配者というのが一番いいんだけどね、みんなを放っておくの、あるがままにしておく。
 ただ、それが出来るのはこの世界を自分のことのように考えられる人、自分を愛することができて、
 同じように世界を愛することができる人、そういう人なら世界の面倒がみられるだろうなあ」
「そういう人がいなかったら?」
「人の心は、本来、善良と徳を持ってはいるんだよ、そのままでいればいいんだけど、
 じっとしていないんだな。
 やさしくすれば和らぐし、火のように燃えることもあれば、氷のように冷たくもなる。
 休んでいればとても静かだけど、動こうとすればどこまでも飛び上がれる。
 だから、力でもって押えることも奮い立たせることもできるんだ。
 それで、いろいろな支配者たちがさまざまなやり方でこれをいじくり回した。
 昔、自分はうまく支配していると思っていたある支配者が、徳のある有名人のもとへ行った。
 自分はみんなが食べていかれるほどたくさんの収穫が得られるよう宇宙のエキスを手に入れたいし、
 陰陽をコントロールしたいんです、と言う」
「へえ、それが手に入れられたらスゴイなあ」
「そんなことを望むのはバカなことだ」
「あ、すいません」
「と、まあ言われちゃったんだな。おまえが支配してきた世界なんか、ちゃんとした雨が降らず、
 紅葉する前に落ち葉になって、太陽も月もくすんでいるぞ、おまえは喋ってるだけの浅はかな奴さ、てね」
「ギビシイっすねえ」
「その支配者はすぐに地位も屋敷もすべて捨てて山に籠った。三ヶ月後、再び徳のある人を訪ね、
 人は生まれてから死ぬまでどのように過ごせばいいんですか、と尋ねた。
 徳のある人はこう言った、
 きみの内にあるものを大切にして、知識という呪縛を断ち切りなさい、
 すべての物に死はないのに人は死ぬものと思い込んでいる、
 すべては無限なのに人は有限と思い込んでいる、
 何も見ず何も聞かず、心をひたすら静かに保っていれば、身体は本来の調和のとれた状態になって、
 永遠の命を得るよ。
 これが道(タオ)さ」
「道……」
 そう君にはちょっと難しいお話でした。